3 信頼性試験

3.1 信頼性試験の目的

半導体デバイスがお客様の製造から輸送および市場でのストレスに対し十分な耐性を満足するものかを確認するとともに、信頼性を維持・向上させるため実施するものです。

  • 信頼性試験の内容

信頼性試験には大きく分けて3種類あります。・・・設計開発時、量産試作時、量産開始後、それぞれの段階で試験を実施し、問題点がないことを確認しています。

  • 信頼性試験の方法

信頼性試験方法については、「日本工業規格(JIS)」,「電子情報技術産業協会規格(JEITA)」,「米軍規格(MIL)」、「国際電気標準会議規格(IEC)」などで各種試験方法が標準化されています。当社における信頼性試験は、主に「電子情報技術産業協会規格(JEITA)」に準拠して実施しています。

3.2 信頼性試験の方法

1) 新規プロセス開発時

IC製品は、技術の進歩とともに、微細化・複雑化されています。このようなIC製品は、実際の製品評価だけで内部素子すべてについて問題点を絞り込むことは困難であり、非効率・非経済的です。そこで、IC製品は、一般に知られるウェーハプロセスの寿命試験(HCI、TDDB、BTI、EM、SM)で、期待寿命が確保されていることを確認するだけでなく、ICを構成している能動素子(トランジスタ)、受動素子(ダイオード、コンデンサ、抵抗)、配線など個別素子レベルでの信頼性を十分に評価・把握します。特に微細化を中心とした新しいプロセスを構築する際は、信頼性用のTEG(Test Element Group)を用い、信頼性上の基本的な問題点がないか検証します。

2) 個別の製品開発段階

この段階においては、概ね2回の製品試作があります。

  • 設計後の試作:設定した特性や信頼性を満足しているかを検証します
  • 量産試作:量産ラインを使用して試作を行い、以下の2点を中心に検証します。

    - 設計後の試作において問題があった場合の対策を確認
    - 量産における問題点の有無を確認

基本的に、各試作において信頼性評価を実施します。

3) 定期信頼性評価

開発段階に作り込まれた信頼性レベルが、量産以降も継続的に維持されていることを確認するために量産品を抜取り、定期的に信頼性評価を行っています。ウェーハプロセス、組立プロセスおよび製造場所などの組合せを考慮して代表品種を決定し評価を実施します。

3.3 信頼性試験に関する規格

JEITA規格 試験方法 試験項目
JEITA EDR-4704B
半導体デバイスの加速寿命試験運用ガイドライン
JEITA EDR-4708B
半導体集積回路 信頼性認定ガイドライン
JEITA EDR-4711A
個別半導体信頼性認定ガイドライン
JEITA ED-4701/002
寿命試験の試験時間,試験個数の決定手順
JEITA ED-4704A
半導体デバイスのウェーハ
プロセスの信頼性試験方法
A-101 HCI:MOSFETのホットキャリア注入試験
A-102 BTI:MOSFETのバイアス・温度不安定性試験
A-104 TDDB:絶縁膜の経時絶縁破壊試験
B-101 EM:定電流エレクトロマイグレーション試験
B-102 SM:銅配線のストレスマイグレーション試験
JEITA ED-4701/100A
寿命試験Ⅰ
101A 高温動作寿命試験
101A 高温バイアス試験
102A 高温高湿バイアス試験
103A 高温高湿保存試験
104A 加湿+実装ストスシリーズ試験
105A 温度サイクル試験
106A 断続動作試験
JEITA ED-4701/200A
寿命試験Ⅱ
201A 高温保存試験
204A 塩水噴霧試験
JEITA ED-4701/301A
強度試験Ⅰ-1
301D はんだ耐熱性試験
302A はんだ耐熱性試験
303A はんだ付け性試験
JEITA ED-4701/302A
強度試験Ⅰ-2
304A 人体モデル静電破壊試験(HBM/ESD)
305D デバイス帯電モデル静電破壊試験(CDM/ESD)
306C ラッチアップ試験
JEITA ED-4701/400A
強度試験Ⅱ
401A 端子強度試験
402 締め付け強度試験
403A 振動試験
404A 衝撃試験
405A 定加速度試験
JEITA ED-4701/500A
その他の試験
501A 捺印の耐溶剤性試験
503 気密性試験
JEITA ED-4701/600
個別半導体特有の試験
601 パワーサイクル試験(樹脂封止タイプ)
602 パワーサイクル試験(ケースタイプ/短時間)
603 パワーサイクル試験(ケースタイプ/長時間)


試験規格 試験方法
JISC60068-2-82 電気・電子部品のウィスカ試験方法
IEC 63287-1 Guidelines for IC reliability qualification plans

3.4 ディレーティングと加速モデル

製品を使用する際に、個別に規定された絶対最大定格や動作範囲内で使用したとしても、半導体の信頼度は、ディレーティングの度合いによって大きく変化します。お客様が機器を設計する際は、十分な安全を見込んだ適切なディレーティングを実施していただくようお願いいたします。当社ではJEITA EDR-4708B/EDR-4711Aに定義されている品質グレードの、一般の想定稼働環境に基づいた信頼性検証を行っております。

以降に、信頼性試験結果から市場寿命を推定する際によく用いられる温度加速モデル、温度差加速モデルおよび湿度加速モデルに基づくディレーティングについて説明します。
電気的ストレスは、自己発熱による温度加速や温度差加速にあてはめることができますが、特に急峻な電圧、電流の印加がある場合や、その他のストレスで懸念のある場合は、当社へお問い合わせください。

温度加速モデル(アレニウスモデル)

アレニウスモデルはスウェーデンの科学者アレニウスが提唱した、ある温度での化学反応の速度を予測するモデルで半導体の寿命推定に最もよく用いられます。

L = A exp ( Ea k T )

ここで、
L:寿命
A:定数
Ea:活性化エネルギ(eV)
k:ボルツマン定数8.6173×10-5(eV/K)
T:絶対温度(K)

ディレーティング温度T1での寿命をL1、信頼性試験温度T2の実施時間をL2とすると加速係数αは次のように求められます。

α = L 1 L 2 = exp { Ea k ( 1 T 1 - 1 T 2 ) }

以上の考え方に基づく弊社実験値による温度ディレーティング曲線の例を以下に示します。

Auワイヤーと、Al電極間の合金化(カーケンドルボイド)寿命例
(高温保存 150℃、160℃、175℃の実験結果より導出)

温度差加速モデル(アイリングモデル)

温度差加速モデルには、アメリカの理論化学者アイリングが提唱したアイリングモデルが採用されており、繰り返し印加される
温度差と寿命サイクル数は次の式で表されます。

L = A × Δ T-n

ここで、
L:寿命
A:定数
ΔT:温度差
n:温度差係数

この式を用いてディレーティング温度差ΔT1での寿命サイクル数をL1、信頼性試験温度差ΔT2の実施サイクル数をL2とすると温度差加速係数αΔTは次のように求められます。

αΔT = L 1 L 2 = ΔT 2 ΔT 1 n

以上の考え方に基づく当社実験値による温度差ディレーティング曲線の例を以下に示します。

チップ接合部(はんだ劣化)寿命例
(パワーサイクルΔ70℃、Δ90℃、Δ100℃の実験結果より導出)

湿度加速モデル

湿度加速については、様々なモデルが提案されていますが、ここでは絶対水蒸気圧モデルと相対湿度モデルについて述べます。

● 絶対水蒸気圧モデル/水蒸気加速係数

一定の累積故障確率に至るまでの時間Lは、水蒸気圧VPに相関があるとするモデルのことで、次の式で表されます。

L = A × VP -n

A:定数
n:2(参考値)

この式より、水蒸気圧加速係数αVPは次の式で表されます。

αVP = L 1 L 2 = V p2 V p1 n

VP1:ディレーティング状態での水蒸気圧
L1:ディレーティング状態での寿命
VP2:信頼性状態での水蒸気圧
L2:信頼性状態での寿命

なお、ある温度Tにおける飽和水蒸気圧e(T)は、Tetensの式を用いて近似的に求めることができます。

e T = 6.1078 × 10 7.5T T + 237.3 (hPa)

● 相対湿度モデル/湿度加速係数

一定の累積故障確率に至るまでの時間Lは、相対湿度RH(%)と温度T(℃)に相関があるとするモデルのことで、次の式で表されます。

L = A × RH -n × exp Ea kT

ここで、
A:定数
Ea:活性化エネルギ(eV)
k:ボルツマン定数 8.617×10-5(eV/K)

この式より、湿度加速係数αHは次の式で表されます。

α H = L2 L1 = RH1 RH2 n

ここで、
RH1:基準状態での相対湿度
L1:基準状態での寿命
RH2:加速状態での相対湿度
L2:加速状態での寿命

以上の考え方に基づき、プレッシャークッカー試験(121℃、100%、100h)に対する絶対水蒸気圧モデルおよび相対湿度モデルによる相関曲線の例を以下に示します。


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